「さくら棒の謎を追え」

 すでに成人した私たちにも幼少時代があり、誰もが学校帰りに「駄菓子屋」によっては、夕食が食べれなくて母親に怒られた記憶があると思います。

「文學カヲル三嶋〜青春ノ太宰治〜」の取材で「三島」に訪れてから、その奥深さを知った筆者でしたが、先日、あるテレビ番組で「静岡県出身者が東京で食べたい静岡グルメとは!?」というテーマで地域限定の商品を紹介していました。

堂々の第1位は「さくら棒」!?    

 何度か取材に訪れ「三島通」を自称していた筆者でしたが・・・知らなかったです。「さくら棒」。  筆者も幼少の頃は、よく駄菓子屋に行っていましたが、「麩菓子」のイメージは黒糖を使っている短いサイズのものでした。「ピンク色」で全長が80cmもある「麩菓子」があるなんて・・・想像もつきませんでした。そのネーミングも、はじめて聞きましたし表面にコーティングされている「糖蜜」が「黒糖」ではなく「白砂糖」だということも驚きです。

そこで、まず一般に言われる「麩菓子」について調べたところ、

「「株式会社トーカイフーズ」(岐阜県揖斐郡大野町五之里516-1)」のHPの商品紹介では「菓子麩は、焼麩と黒糖をミックスした、アルカリ食品です。麩の良質な小麦蛋白(グルテン)と、黒糖が持つビタミンB1・ビタミンB2・ミネラル・カルシウムなどが融合し、織りなす味わいは まさに絶品です。黒糖は、素早く消化吸収され、脳のエネルギーになります。体力 ・長寿 ・美容のために、お子様の成長を助ける おやつとして、自信をもって お勧めします。」とあります。                         駄菓子としての「麩菓子」は、「子供の成長を助けるおやつ」という定義から表面に塗るものとして「黒糖」を使用しているのは、そこに要因があるようです。

一般に言われている「麩菓子」とは違う「さくら棒」。

 それを確かめるべく、早速、三島市内にある駄菓子屋「ムラカミ」に行ってみました。このお店は、以前にも紹介しました看板建築を保存している建物を借りて営業しているお店で、市内の観光名所にもなっています。店頭には色とりどりの「さくら棒」が吊るしてありました。


「ムラカミ全景」(2010年10月撮影)


「さくら棒」(2010年10月撮影)


そんな静岡県民に愛されている「さくら棒」。では、一体、いつごろ誕生したのでしょうか。

 番組にも登場した市内で駄菓子問屋を経営している「駒形屋」(静岡県三島市東本町1-9-6)の駒形社長曰く

「駒形屋全景」(2010年10月撮影)

「沖縄からお砂糖(黒糖)が来てたんだけど、戦争でお砂糖が来なくなったということで、それで、白い砂糖で始めたんだけど、あの〜(麩菓子の)生地が白なんですよね。それで「白」と「白」じゃ合わないってことでピンク色に染めた・・・。」ということです。(番組インビューから引用)

 「沖縄」「戦争」といえば、第二次世界大戦末期ということで、終戦の年、昭和20年(1945年)前後ということになります。

 その真相を確かめたかったのですが、今回は、直接、駒形社長に取材できませんでした。そこのところは、もう少し調査してみる価値はありそうです。

 もうひとつ、製造している立場から、同じく出演されていた伊丹社長に、電話取材という形ではありましたが、その疑問を直接ぶつけてみました。突然の取材にも伊丹社長は快く応じてくださいました。


「三島食品(株)全景」(2010年10月撮影)


伊丹社長曰く

「さくら棒」の製造をはじめたのは、およそ15年前のこと。詳しい由来については知りません。」とのことでした。

 またしても「さくら棒」の謎に迫ることはできませんでしたが、取材中、「三島食品はもともと製麺を専業にしていた会社だったのに、なぜ「さくら棒」を製造するようになったのか。」という話になり、伊丹社長から知られざる意外な秘話を聞きました。

話は・・・およそ15年前に戻ります。

 伊丹社長が経営されている「「三島食品(株)」(三島市南二日町27-38)」は、市内でも有名な製麺会社でした。

 しかし、当時「バブル崩壊(1990年以降)」の煽りを受け景気が低迷、年々、販売量が減少し売り上げは横ばい状態でした。(商品の販売価格が下がり、原材料などの製造コストが上がるなど利益幅が減少しているジリ貧状態でした。)「このままでは「製麺」専業での事業の継続は難しい。」先行きに不安を抱えたまま新たな事業展開について考え倦(あぐ)ねる日々を過ごしていたそうです。              ある日のこと。富士宮市(県東部地区)にあった「さくら棒」を製造していた老舗A製麩所のご主人が体調を崩して製造を中止するみたいだ。」ということを知人から聞くのです。その話を聞いたとき、伊丹社長の心の中に「何か分からない。」が惹き付けられるものを感じたそうです。                元々、伊丹社長の出身地が同じ富士市(富士宮市とは隣接)ということもあり、天命に導かれるように製麩所のご主人に事業を引き継がせていただくよう交渉に赴きます。その話を聞いたご主人は、

伊丹社長が@「「麩菓子」の製造に関しては初心者であること。」                 A「製造に関して技術的に難しいこと。」などを説明されたそうです。

 この話を聞いた奥様も、同じ粉ものを使った商品であるにせよ、製造に必要な機械や技術習得など沢山の課題があるなどの理由から反対されたそうです。それでも伊丹社長は諦めませんでした。何度か交渉するうちに製麩所のご主人も伊丹社長の熱意と数奇な巡り合わせを感じ最終的には事業継承を承諾し製造に必要な機械一式を安価で譲ってくれたのです。

 いよいよ「麩菓子」の製造となる訳ですが、ここからが試行錯誤の連続だったそうです。 製造に関する技術については、ひと通り取得したのですが、いざ、製品を作ってみると製麩所のご主人のものと自分のものには明らかに違いがありました。何度も試作を重ねるうち、ご自身で納得できるものが出来たときは、正直、嬉しかったそうです。

伊丹社長曰く「丁度、「本業の事業継続への不安」と「麩菓子製造の技術継承」が同じ時期だったということは、やはり天命だったんじゃないでしょうか。当時は、本当に何かの力に導かれるように、がむしゃらでしたからね。私の体力が続く限りは、この伝統を守っていきたいと思っています。」

 今も「さくら棒」という名称は変りませんが、現在では10種類(「さくら棒」「メロン」「バナナ」「イチゴ」「チョコ」「コーヒー」「ココア」「抹茶」「ミカン」「ぶどう」など)のバリエーションに増えました。基本的には、「さくら棒」と同じく元となる生地に、それぞれのイメージカラーを出す為に、着色料を入れ棒の麩菓子として作ったあと、表面に塗る「糖蜜」に、それぞれのフレーバーを混ぜ合わせたものを塗ってから乾燥させて仕上げているのだそうです。

 よくテレビ番組でも紹介されますが、それぞれの地域に根ざした伝統的な食や工芸など修練を積まなければ技術習得や継承ができないものが沢山あります。そのような伝統技術は、それを伝える者と継承する者がいなければ途絶えてしまいます。                                  今回のように、いわば天命に導かれて伝統技術を継承した伊丹社長のようなケースは、全国には、まだまだ沢山あると思います。

 最後に静岡県民に愛されている「さくら棒」。その起源については、今の段階では謎のままですが、現在、おみやげ用として注目されているロングサイズのものを「最初に製造したのは、一体、誰なのか?」という疑問について、一説には「栗山製麩所(掛川市横須賀926番地)」ではないかと言われています。   その誕生のきっかけは、主人の栗山さんが「何か珍しいお麩のお菓子はないものか」と試行錯誤を重ね、現在のサイズが誕生したようです。

そこのところを伊丹社長にお聞きしたところ・・・

伊丹社長「私がA製麩所から「さくら棒」の技術を継承したのは、約15年前のこと。いわば、この業界では若輩者ですので詳しいことは分かりません。」とのことでした。

この「さくら棒」については、引き続き調査を続行していきます。


資料


〇県内で製造している企業(確認できたところ)


@「佐藤製麩所」(浜松市西区舞阪町舞阪224)商品名「さくら棒」

A「栗山製麩所」(掛川市横須賀926番地)商品名「おいしん棒」「大吉茶ばしら」

B「麩屋久商店」(掛川市十九首18)

C「関根麩店」(静岡市葵区通車町3-12)商品名「焼麩ー桜ぼく」

D「三島食品(株)」(三島市南二日町27-38)商品名「さくら棒」(抹茶、チョコ、さくら、バナナ、みかん、ブドウ、メロン、いちご)


〇「静岡県外の長い「ふ菓子」(一例)」


「鬼の金棒」(「麩美商店」(岐阜県不破郡垂井町表佐1701))

「弁慶棒」(「栄山堂」(京都市東山区清水2丁目)

「福福棒(ふくふくぼう)」(「銭屋(ぜにや)」(伊勢市宇治中之切町おかげ横丁内)

「元祖 日本一長〜い黒糖ふ菓子」(「松陸製菓」(埼玉県川越市元町2-11-6)


〇「静岡県外の短い「ふ菓子」(一例)」


「黒糖ふ菓子 ふーちゃん」(「敷島産業(株)」(岐阜県本巣市身延1339-2))

「黒糖味ふ菓子」(「(株)トーカイフーズ」(岐阜県揖斐郡大野町五之里516-1))

「黒糖ふ菓子」(「ローヤル製菓(株)」(岐阜県羽島郡岐南岐阜県羽島郡町平島6丁目103))

「たえちゃん」(「麩屋藤商店」(愛知県岡崎市柱1丁目6-7))

「黒砂糖ふ菓子」(「(株)やおきん」(東京都墨田区横川5-3-2 ))

「鍵屋のふ菓子」(「鍵屋製菓(有)」(東京都墨田区錦糸4-8-6))




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